初めに
道糸なんて、PEラインを巻いときゃ大丈夫っしょ!
そうとも限りません。道糸は、ナイロンに始まり、慣れるとPEが使いたくなり、しばらくするとナイロンに戻りたい時がきます。道糸の選び方を詳しく説明します。
釣りのタックルは、狙う魚種に応じて最適な構成が異なります。竿から針先までで考えると、最適なタックル構成が同じ魚種は一つもないと言えます。
しかし、我々釣り愛好家は、狙う魚種毎にタックルを揃えるお金も場所もありません。複数のターゲットをイメージしながら、中間地点を探して、ある程度共用できる構成を見つける必要があります。
いろいろな釣り道具の中で、どうしても複数パターンそろえなければならない道具の一つが道糸です。ハリスは毎釣行組み直せますが、道糸はそんな面倒なことやってられません。
一般的な海釣りで道糸を選ぶときの選択肢は、ナイロン素材またはPE素材になります。
ルアーフィッシングの場合は、先端についているルアーの操作性が良いPE一択と考えて問題ありません。
それに対して、餌釣りの場合は、やりたい釣法によって、ナイロンが優位なケースとPEが優位なケースがあります。
この記事では、餌釣りの様々な釣法と狙う魚種に応じて巻くべき道糸の選び方を紹介します。
ナイロンとPEの長所と短所
素材の軽さ(比重)
- ナイロン・・・海水より重い
- PE・・・海水より軽い
同じ太さと同じ長さの糸であれば、ナイロンの方が若干重くなります。
それぞれの素材を負荷を掛けずに海水の上に置くと、ナイロンは沈み、PEは海面に浮く性質があります。
なお、ナイロンについては、浮力を上げる素材を加えることで、水面に浮くタイプもあります。これについては、後述の章で詳しく説明します。
引っ張り強度
- ナイロン・・・普通
- PE・・・強い
同じ太さの糸に同じ力を掛け続けたときの耐久性は、PE素材の方が強いです。ナイロンを使うときは、引っ張り強度の低さを太さ(号数)でカバーします。
堤防からの釣りであれば、PEラインは0.6~2.5号、ナイロンラインは2~5号を使うことが多いです。
道糸は太いほど風や潮流の影響を受けやすいです。細くて軽いことで風と潮流の影響を受けにくくなるメリットが、PEを選択する最大の理由と言えます。
伸縮性
- ナイロン・・・伸び縮みしやすい
- PE・・・ほとんど伸びない
伸縮性は、何も負荷を掛けないときに対して、負荷をかけたときにどれくらい伸びるかを表す性質です。ナイロンは元の長さの30%くらい伸びるのに対して、PEはほとんど伸びません。
伸びることと伸びないことは、それぞれにメリットがあります。
伸びるメリットは、急激な力が掛かったときに力が分散されやすいことです。伸びないメリットは、少しでもラインに力が掛かったときに、手元までその力が伝わりやすいことです。
【ワンポイント】魚に取って受難なナイロンライン
ナイロンとPEを比較すると、同じ太さであれば引っ張り強度はPEの方が強い傾向があります。
しかし、突然強い力を掛けたとき、ラインブレイクする可能性はナイロンの方が圧倒的に低いです。これは、ナイロン素材の伸縮性が関係しています。
釣りでヒットした魚は、魚種によって針掛かりしたときの逃げ方に特性がありますが、概ね「逃げる」「休む」を繰り返すのが普通です。
堤防の壁際まで大型魚を引き寄せた時を観察すると、魚が引っ張られながら逃げられる距離は、一回当たりせいぜい5m程度です。
ナイロンは、定常時の長さに対して最大30%伸びると言われています。
取り込む寸前でなければ、リールの根元から魚まで20mくらいは道糸が出ています。つまり、ナイロンであれば、魚が頑張って逃げようとしても、道糸の伸び縮みで逃げる力が吸収されてしまうわけです。
もちろん、ドラグや竿にも力を分散する仕組みがあるので、ナイロンだけで吸収するわけではないですが、魚の力がダイレクトに掛かる道糸が急激な力を分散する上で重要であることは間違いありません。
ちなみに、筆者は2号のナイロンラインで45㎝のハマチを釣ったこともあるぞ!
擦れの強さ
- ナイロン・・・普通
- PE・・・弱い
鋭いものに触れたときの切れにくさは、ナイロンの方が上です。
これを気にしなければならないのは、磯釣りなど底が起伏に富んでいて、道糸が岩などに触れる可能性がある釣り場です。
一般的な釣り人が訪れるような堤防では、あまり気にする必要はないです。
メートル単価
- ナイロン・・・安い
- PE・・・高い
同じ強度であれば、ナイロンとPEでは圧倒的にナイロンの方が1m当たりの単価が安くなります。最近であれば、100均でもナイロンの道糸は置いています。
糸の寿命
- ナイロン・・・普通
- PE・・・長い
道糸の交換周期はPEの方が長くなります。といっても、筆者はナイロンを1シーズン普通に使い続けます。それによって釣果が落ちるということもないです。
ただ、ナイロンは海水に触れるとPEに比べて早く劣化します。
PEラインであれば2シーズン使うことも問題ありませんが、ナイロンはできれば毎シーズン交換した方がいいです。
と言っておきながら、筆者はナイロンであっても、劣化したという理由だけで交換したことはない。その代わり毎釣行しっかり洗って、海水を洗い流すようにしているぞ!
ランニングコスト
- ナイロン・・・普通
- PE・・・安い
劣化の都度、道糸を新調するマメな釣り人であれば、PEの方が交換周期が長いためランニングコストが安くなります。
トラブルの頻度
- ナイロン・・・起こりにくい
- PE・・・起こりやすい
ナイロンは、PEに比べて固いため、他の糸と絡むことはあっても、自分自身で結び目を作ってしまうような絡み方はしにくいです。
それに対してPEは、素材が柔らかいため、竿のガイドの途中で引っかかったりすると、自分自身で結び目を作るような絡み方をします。
さらに、PEは細いことが多いので、一度結び目を強い力で固めてしまうと、容易には解消できません。
PEで結び目ができそうになった時は、引っ張らないことが肝心だ!筆者は、下の写真のような、100均で買った千枚通しを釣り道具として持っていて、これを結び目の中心に通して解消しているぞ。
釣りの経験値と道糸の選び方
初心者はなぜナイロン?
釣り初心者向けの釣り竿セットのリールに初めから巻いてある道糸は、ほとんどのものがナイロンです。
また、仮に餌釣りを始めたいという人が、リールを新たに購入する場合、ナイロンを使うのが普通です。
釣り始めたての人がナイロンを使うべき理由は、以下の二つです。
- 揃える道具のイニシャルコストが安くなる。
- ライントラブルが起こりにくい。
釣りというのは非常にお金のかかる趣味で、釣り入門者に対するイニシャルコストを抑えることは釣り業界にとって重要な命題です。
すぐにやめてしまう可能性も考えると、ランニングコストの安いPEではなく、イニシャルコストが安いナイロンを選択するべきです。
もう一つの理由はトラブルの起こりにくさです。
釣り初心者が始めて釣り場に行くと、道糸が絡まるトラブルを起こすのが普通です。絡まっても、ナイロンであればほどきやすいですが、PEは経験者でも容易にほどけないことがあります。
慣れてきたらPEが使いたくなる
釣りに慣れてくると、PEに挑戦したくなる時が来ます。
釣りに慣れてきた人がPEを使いたいと思う理由は、以下の四つです。
- キャストしたときの距離を出したい
- ラインメンディングをしやすくしたい
- 魚がヒットしたときの感度が欲しい
- コストパフォーマンスが高い方がいい
引っ張り強度の高いPEは、同じ強度でも道糸を細くすることができます。道糸は、細いほど空気抵抗を受けにくく、キャストしたときの距離を稼げます。
ラインメンディングとは、キャスト後に釣り人が実施する道糸コントロールのことです。細くて軽い素材のPEは、その分潮流の影響を受けにくく、ラインメンディングがやりやすいです。
PEはほとんど伸び縮みしないため、少しでも引っ張られると、例えそれが100m遠方でもダイレクトに手元に伝わります。
堤防でやる釣りの場合、極端に高い感度を必要とするケースはあまり多くないですが、感度が高ければ小さい当たりを感じやすくなります。
最後にコストパフォーマンスです。ナイロンは明らかに経年劣化しますが、PEはトラブルさえなければ2,3年使い続けることも可能です。
道糸の巻き替え頻度を考慮すると、PEの方がトータルコストが安くつきます。
ナイロンに帰りたくなる時
距離は出る、道糸コントロールがしやすい、感度はいい、ランニングコストは安い、良いところだらけに見えるPEですが、苦手な釣法と苦手な釣り場があります。
PEが苦手な釣法は、ウキ釣りです。
これは、PEがウキ止めと相性が悪いことに起因します。細い号数を使うPEは、ゴムタイプのウキ止めは使うことができないため、ウキ止め糸を使います。
しかし、慣れている人でもウキ止め糸はなかなかカッチリ締めることが難しいです。
PEが苦手な釣り場は、風が強く、底が荒い磯場です。
PEは比重が軽く、ナイロンに比べて風の影響を受けやすいです。また、擦れに弱いため、岩などにぶつかると簡単に切れてしまいます。
このようなPEの苦手部分が見えてくると、再びナイロンを見直してみたいと思うわけです。
堤防の釣りで選ぶべき道糸
ウキを使った釣り
- 【結論】ナイロンが優位
ウキ釣りをメインに使うリールは、ナイロンを巻くのがいいです。
太さはなかなか迷うところですが、大型狙いの飲ませ釣りから、繊細なフカセ釣りまで、広くカバーしたければフロートタイプの3号でいいと思います。
3号より細いと強度的に心配で、3号より太いと道糸が固く感じられてライントラブルになりやすいです。
胴付き仕掛けやぶっこみ釣り
- 【結論】PEがやや優位
胴付き仕掛けやぶっこみ釣りは、あまり遠投をする釣法ではありません。そのため、ナイロンでもPEでもどちらでも大丈夫です。
ただ、仕掛けに少しでも何らかの力が掛かったときに、竿に出る反応がよりわかりやすいのはPEラインです。
また、水深が深い場合、ナイロンだと潮流の影響を受けやすく、底に付ける錘をPEに比べて重くする必要があります。
以上の理由から、PEの方がやや使いやすいと言えます。
少しでも遠投距離を伸ばしたい釣り
- 【結論】PEが優位
漁礁や駆け上がりが堤防からかなり遠いポイント、回遊魚が堤防際まで近づいてこないポイントは、少しでもキャストする距離を稼げるPEを巻くのがいいです。
人気堤防では、他の釣り人に1mでも差を付けようと、皆さん必死でフルキャストしています。
経験のある釣り人であっても、遠くに投げた方が釣れると思う傾向がある。でも、飛距離が出た人の方が釣果が出ていると感じることは意外と少ないぞ!
※上級者向け※飲ませ釣りエレベーター仕掛け
- 【結論】潮流が緩ければナイロン、速ければPE
飲ませ釣りのエレベーター仕掛けは、ウキ釣りでもなければ、胴付き仕掛けとも少し違う特殊な釣法です。
生き餌を付けたハリスにスナップを付けて、道糸に沿ってハリスごと生き餌をエレベーターのように沈めていきます。
この釣法では、ナイロンとPEで異なるもう一つの特徴である滑りやすさに注目する必要があります。
ナイロンの方が滑りやすいため生き餌を底まで沈めやすくなります。PEは滑りにくいため、底に沈めるまでに時間が掛かります。
その一方、道糸で同じ強度を出そうとするとナイロンの方が太くなります。太いと、潮流の影響を受けやすくなります。
そのため、潮流の緩い釣り場ではナイロン、速い釣り場ではPEを使うのがお勧めです。
ナイロンの中にも違いがある
ナイロン素材の道糸には、フロートタイプとサスペンドタイプがあります。下の写真は、左がフロート、右がサスペンドになります。
フロートタイプは、何も負荷を掛けなければ、沈まずに水面を漂います。それに対して、サスペンドタイプは、負荷を掛けなくても沈んでいきます。
フロートタイプは風の影響を受けやすく、サスペンドタイプは潮流の影響を受けやすいです。
空気から受ける力と海水から受ける力では、圧倒的に海水から受ける力の方が大きいので、フロートタイプの方がコントロールしやすいと言えます。特に、潮流の激しいポイントでは、サスペンドタイプは扱いにくいです。
どちらのタイプか迷ったら、フロートタイプを選べば間違いありません。
サスペンドタイプは、仕掛け全体が軽くて、道糸の浮力が邪魔と感じるような繊細な釣りに使います。
フカセ釣りの中でも、0に近い浮力のウキを使う上級者が好んで使うことがあります。
筆者は、先日試しに写真右のサスペンドタイプを買ってみたが、ちょっとでも潮流があると引っ張られて使いにくいと感じた。普通のウキ釣りをやる分には、フロートタイプ一択と考えて問題ないぞ!
ナイロンとPEのハイブリッド
これは、ナイロンとPEそれぞれを良いとこ取りした仕掛けです。
下の図のように、リールの巻く道糸は基本PEとしておき、その先に「水深の深さ+α」程度のナイロンをFGノットなどで直結します。
この構成にすると、PEの長所を活かしつつ、ウキ釣りをすることができます。
ハイブリッド構成はいいところだらけで欠点がないように見えますが、実際に何回かやってみると、多少気になることが出てきます。
一つ目の欠点は、直結したノットがリールの中に入ってしまうことです。
リールの中に直結部が入ると、どんなに上手にノットを組んだとしても、キャスト時に引っかかることがあります。
二つ目の欠点は、結構な頻度でノットの組みなおしが必要なことです。
先に付けるナイロンの長さですが、長すぎるとPEのメリットがなくなります。筆者のホームグラウンドの明石海峡では、堤防から届くポイントの水深はせいぜい15mなので、先に付けるナイロンは20mくらいとしています。
2,3回使っていると、少しずつナイロンが短くなってきます。その都度、15m程度のナイロンを捨てて、新しく20mのナイロンを付け直す必要があります。
筆者は、このハイブリッド構成専用のリールを一つ常備しています。先端に付けるナイロンは、4号を付けています。餌釣りでは、このハイブリッド構成のリールを使う機会が一番多いです。
最後にまとめ
釣りを始めたばかりだと、なぜ釣り経験者が複数台のリールを持っているのか理解できないと思います。
もちろん、一回の釣りで複数の竿を出す、という理由もありますが、それ以上に釣法に応じて適切な道糸が異なるため、というのが大きいです。
一般の釣り愛好家が、やりたい釣りを変えるたびに道糸を巻きなおしていたら、時間もお金ももったいないです。
そこで、もしいろいろな餌釣りをやりたいのであれば、最低でも以下の2種類の道糸を巻いたリールを常備しておけば、ほとんどの釣法と魚種に対応できます。
- ナイロン3号
- PE1.5号
この2種類があれば、サビキ釣り・ぶっこみ・ウキ釣り・飲ませ釣りまで、堤防からできる餌釣りはほとんどの魚種と釣法がカバーできます。
ウキ釣りだけど少しでも距離を稼ぎたい、そんなときはハイブリッド構成としてみましょう。
ルアーフィッシングであれば、小物狙いで0.4号や0.6号などの極細PEラインを使いたい場面もある。しかし、餌釣りであれば、このような細いPEラインは不要だ!